U:サイトウさんはcollaboreに絵の額装を頼んでいるそうですが、額装というのは、その絵を持つ人たちの空間との橋渡しをするもので、作家としては送り出すためのアウトラインになるので、すごくこだわるのではないでしょうか。
でも、受け手にとっては自分の空間にそれが現れたときには、インナーラインになります。サイトウさんは作家として「絵の外の境界はここだ」と額装したとき、鑑賞者から見える絵との距離がすごく重要だと思います。それを絵を持つ人たちは自分の空間から内側を見ているので、その作家と絵の所有者双方の距離感のバランスをとりながら橋渡しをするのが、まるで家具的な感じがします。
そのコラボレーションを支えるバランサーとして「collabore」という名前を付けたのかな?(笑)。
U:日本人が針葉樹と向き合い、建築と直結する建具を調整してきた事実があります。その調整する技術の繊細さが日本では引き継がれていて、それが防御として使われている欧米の建具・家具屋とは違うという話をしていたのですが。
コラボレ山形(以降Y):調整するのは僕も好きなんです。この仕事を始めた頃は落としどころや逃げの数字がわからなかったんです。設計上これくらいの余裕をとっておいて、実際に作ってみて「お、ちょうどいいな」というのがわかってきたら、だんだんこの仕事が面白くなってきました。頭で考えずに、勘や身体で調整していくという感じですね。
U:collaboreは「家具を買う」家具屋ではなく、「家具を人生に取り込む」家具屋だと思います。そこが特殊なんです。 家具を持った人がそれを維持したいと思う「感情的価値」が、次の世代にも引き継がれることが重要だと考えている人が増えていると思います。
Y:古くなってだんだんいい味が出てくるんですよね。どうしてそうなるのかははっきりとはわからないんですが、 まずは「ちゃんと作る」。そのプロダクトの肝を押さえて、先のことも考えながら。10年後の姿を思い浮かべつつ、「これなら大丈夫だ」というイメージで作っています。
I:山形さんが来る前に、僕がcollaboreの家具を眺めるのが好きだという話を内海さんにしていたところです。
U:結局ね、インテリアもランドスケープなんですよ。山の風景が角度が変わると見え方が変わるのと同じで、家具も角度が違うと全然見え方が違いますよね。角度によって発見することが違います。そういう楽しみ方ができると、街の作り方も変わってくると思います。大きくランドスケープを考えるよりも、日本人は身近なところからランドスケープを考えた方がいいかもしれませんね。インナーランドスケープ、インテリアランドスケープという学問があってもいいと思います。
室内をランドスケープと捉えれば、家具は建築ですし、壁は風景です。不動産的なアプローチで住宅を作るより、住宅デザインがもっと成熟していくかもしれません。
ただ、急に成熟するわけではなく、今の産業構造の中にそういった要素を徐々に織り交ぜていくことになるでしょう。自分の空間の中で、大量生産の家具の中に一つだけ良い家具を織り交ぜるのも良いと思います。
U:さっき言ったように、モノの寿命には「物理的寿命」「感情的寿命」「機能的寿命」などいろいろありますが、collaboreの山形さんは、いろんな意味で「感情的寿命」を伸ばすための答えを出していると思います。それがcollaboreの重要なところです。
建築もそうですが、最初は街に現れて「なんだこれ、違和感しかないじゃん」と思われても、それが馴染んでみんなに承認されれば、「この建物のおかげで街が良くなったね」と次の世代が感じてくれれば、設計者としては成功だと感じられるんです。
建築物ができたばかりの時に「結構、画になるね」と建築雑誌に載るようなものは、むしろがっかりするデザインだったりします。建築が画になるまでには、年月がかかるはずです。周りの草木がボサボサしてきて、建物の外壁が少しやれてこないと様になりませんし、なんなら外構も輪郭がぼやけてきた方が、むしろ引き締まるんです。
日本人ってエッジを立ててキチッと作りすぎるんですよね。みんなシャープすぎちゃう。
年月が経って馴染んでいく過程で、記憶がモノをオブラートに包んで継承していくような感覚があって、それが環境という意味で、自分の身近に現れるのが「家具」なんです。
まぁ、家具を環境や街並みになぞらえるのは少し距離がありすぎるかもしれませんが、さっきインタビュアーの方が仰ったように、「ソファの脚のフォルムが綺麗だな」と感じて、そのデザインの仕組みとして、家具の安定性や材料について考えるきっかけになるとしたら、
私たちの身近にあるもので最も良いサンプルになるかもしれませんね。
I:僕、それすごくわかります。僕の空間もまさにそんな感じで、collaboreのソファを置いただけで、空間がようやく落ち着いたように感じました。
ジャズのようなデザイン哲学