
内海智行さん建築家
1963年茨城県生まれ。英国王立芸術大学院(RCS)を修了後、筑波大学大学院修士課程修了。
イギリスの設計事務所を経て、大手ゼネコンで建築設計に携わった後、1998年に「ミリグラムスタジオ」を設立。
家具は空間を形作るだけでなく、
暮らしの中で馴染み、
時間とともに感情的価値を育む存在。
使うほどに愛着が深まり、
記憶と結びつくコラボレの家具。
その家具が人の心に響き、
どのように暮らしに溶け込んでいくのか。
二人の視点を通じて、コラボレの本質に迫った
インタビュー内容になっています。
1963年茨城県生まれ。英国王立芸術大学院(RCS)を修了後、筑波大学大学院修士課程修了。
イギリスの設計事務所を経て、大手ゼネコンで建築設計に携わった後、1998年に「ミリグラムスタジオ」を設立。
2003年、東京藝術大学美術学部工芸科鋳金専攻を卒業後、2005年、同大学大学院を修了。
2008年より地元・神奈川を拠点に個展を開催し、2013年からは東京、ニューヨーク、台湾など国内外で展示活動を展開する。
サイトウさんの作品は、素材や色彩、構図への鋭い感覚と、独自の視点から生まれる余白の美しさが印象的。
インタビュアー(以降I):内海さんが代表を務めているミリグラムスタジオ(https://milligram.ne.jp/)のウェブサイトで施工例を拝見しました。モダンでありながら、人を包み込むような優しさを感じる建築物が多いという印象を受けました。
どのような考え方で設計されているのでしょうか?
内海さん(以降U):歴史的には、建築というのは宗教建築や大きな建物を、都市計画に関わる人が権力者とともに作っていたものを指します。それがどんどん民主化されて、住宅や街へと変わっていったのだと思います。
昔、庶民が住んでいたのは民家で、建築とは違うものでした。僕はゼネコンにいたことがあり、大きな建築も設計しましたが、どちらかというと、それよりも小さな建築の方が好きでした。消えてなくなっていくような仕事、という意味で「ミリグラムスタジオ」という会社名にしました。
I:そういう意味だったんですね。
U:19世紀以降、建築の中で家具やインテリアはあまり重要視されていない部分があります。本来は繋がっているはずなのに、断絶された状態になってしまっているんです。
モダニズムというのは近代工業主義以降の話で、産業を効率化し、効率よくモノを作ることが重要視され、「計画」が大切とされます。計画性というのは、ゴールが見えていなければならない。「手仕事」とか言ってはいけないんです。モダニズムは終わりから考えるんです。そうすると、手作業をしていた人たちの仕事がどんどんモダニズムに奪われていってしまいますよね。
I:現代でもAIに関する話題で同じような話を聞きますね。
U:そういった時に、環境をある程度維持しながら、手仕事をする人たちの立場を確保しつつ、建築に向き合っていかないと、「人を包み込む」ということに反してしまいます。
その極端な例が「クールモダン」で、人を排除する建築になってしまいます。だからこそ、私は大きな建築とは対極的な建築をやりたいと思ったのです。
U:建築は用途があって、それなりに機能もありますし、法律で縛られてしまうため、芸術の中でも最も自由度が低いというか、風下にある存在です。ピュアな世界で創作できず、淀んだ世界観の中にあるんです。そんな中でも唯一面白いのは、それぞれのエンドユーザーが持つ価値観に寄り添えるところです。それをどんどんデザインに落とし込んでいくと、最終的にはモノとしての形に収まります。価値観が反映される場所として「家具」があり、最終的に家具は建築の中で重要な存在になるんです。
おそらく建築家というのは、「趣味」とされるユーザーの多様な価値観に対して方向性を示す役割を担っているのだと思います。
30年ほど前から、建築家自身の生き方も、お施主さんの生き様と向き合う中で、自分のらしさを重ね、自分を商品化してプロデュースしていくというスタイルが主流になってきたと思います。そうなると、家具の重要性がますます高まってくるわけです。
U:家具は家族の形そのものではないでしょうか。
では、家の設計を始めるときに、すべての要素がわかりやすくなる場所がキッチンです。キッチンを形作る際には、動線計画や火の位置、換気や採光条件などを考慮します。キッチンから始めることで、施主の理想や家族像が浮かび上がってきます。
例えば、「この家族で本当に料理が好きなのは誰か」といったこともわかります。キッチンのデザインが決まると、次は「ダイニングをどうするか」といった具合に、周辺のデザインが次第に見えてきます。
本来、建築計画はアウトラインから始めるのが筋ですが、たとえ自分の中でアウトラインが見えていたとしても、それを最後まで表に出すことはありません。つまり、内部から外部へとデザインが構成されていくストーリーを持ちながら設計を進めています。