journal

「サイトウナオコ」さんは、アルミ鋳造の立体作品「HARUO」を作り、味わいのあるテクスチャを持つ古い紙に絵を描くアーティスト。コラボレの家具やアトリエのような空気が漂うショールームが大切にしている、「日常と非日常のはざま」。それと同じ匂いをサイトウさんが産み出す「HARUO」や絵にも感じる。サイトウさんの描いた絵と「HARUO」は、コラボレのショールームにも置かれている。

日常の風景として溶け込んでいるが、もし、ある日突然、ショールームからサイトウさんのアートがなくなってしまったとしたら、きっと何かが足らない空間になってしまうだろう。そのくらい重要なエフェクトなのだ。サイトウさんの中におそらくあるはずの、コラボレとの接点を探るために、お話しをうかがいました。

image photos

―サイトウさんの絵を最初に見た時、日常の風景だけども、この世界に存在しない風景のようにも感じて、じっと見入ってしまいました。コラボレのショールームのコンセプトに「非日常的な場所から日常のことを考える」というものがあるのですが、それと同じ匂いをサイトウさんの絵にも感じますが、サイトウさん自身はどんなことをテーマにしながら、絵を描いているのでしょうか?

サイトウさん:私は「非日常」ということはあまり意識をしていません。なので、絵のテーマは限りなく「日常」なんですよね。非日常をどう捉えているかによって、認識がだいぶ変わってくると思います。コラボレの作っている家具に、自分とのコンセプトの遠さを感じるかというと、全然感じません。どちらかというとコンセプトは近いような気がします。だから、一緒に仕事をしているし、話も盛り上がる。

サイトウさんとコラボレの共通点って何でしょうか?

サイトウさん:コラボレを良いと感じている点としては、「作られているカッコよさとかではない」ところ。計算されたシンプルなデザインで、自然にスッとそこにあって。そして見れば見るほど、吸い込まれるというか。そういう部分がコラボレの家具のカッコよさだと感じます。

そして、使い込むことで味わい深くなり、経年変化による時間の流れを感じられる心地よさがある点も素敵です。

家のなかで、全部でもいいし、ひとつだけ混ざってもコラボレの家具はいいですよね。「こうしてください」っていう主張や提案はしてこないじゃないですか。だけど、お客さんを選んでいる、っていう部分も強い。たぶん「この家具を使ってくれる人って、こういう人なんだろうなぁ」っていうことを考えながら家具を作っていたり、考え尽されているんだけど、その部分を押し付けられるかんじがしない。

自分もそういう姿勢でいたいです。「どうだすごいだろ」っていうような絵は自分も全然いいと思わないし。やっぱり空気の流れのある絵を描きたいと思っていて、絵のなかの人が「そこに居そう」っていうのをすごく大事にしています。
「空気を止めない」というのは絵でも「HARUO」でも同じです。お客さんにとってはアートは非日常体験かもしれないけれど、私にとっては、もっと普通でありたいと思っています。

だから極力普通の空気を持った作品を作りたい。日常で面白いと思っているところをもっと掘り下げたい、って思っているんです。気張ったことをしようというのはないです。ただ、「あの人が描いた絵だよね」っていうのは必要だと思っています。誰でも作れるものを作ってもしょうがないから。

image photos

―古い紙に描こう、と始めたきっかけは?

サイトウさん:白いスケッチブックを広げて描くよりは、空気が作りやすかったというか。

描いたものがたまってきたところで「展示してみたら?」という話があって、最初は小さなカフェで展示会をしました。そういう場所だと、普通の人が普通の気持ちで絵が眺められるじゃないですか。日常の態勢で。椅子に座ってお酒やお茶を飲んで、絵を見て「いいね~」なんて言えるようなシチュエーションが、単純にいいなって思ったんです。実際に、絵に対してのコメントがポンポン出てくるんです。作家さんによってはカフェ展を嫌がる人もいるんですが、ギャラリーもカフェも、私はどっちもいいと思っています。

「HARUO」を作ったのも、彫刻作品や工芸作品は、「触れられない」っていうイメージがあって。ある一定の距離をとって「へー」って眺める、アレが嫌だったんです。だから触りたくなるカタチを作ってやろうと思ったんです。で、「触っていいんですか?」って言われたところから会話が始まる。触った感想をもらうとかでもいいし。

「普通のことで、見落としてることっていっぱいあるよね」っていう、日常のなかの面白さを見つけるのでもいいし、「こういうのって見たことある。あの時のあのかんじだよね」っていうこととか。人と共感するツールとして、自分のアートがあっていいと思うし。

自分でも音楽を聴いて、パッとある時を思い出すとか、雨が降った時に匂いで思い出すとか。あのかんじを追い求めてる。それは立体作品でも、絵でも同じ。私の絵を見て「あぁ、昔こういう人好きだったな」とかでもいいし、作品を見た人の気持ちが「グラっ」としたら「ヨシ」って思っています。そうやって「グラっ」ときたものって、また思い出してくれると思うし。

たとえば「HARUO」の顔をはっきりさせてしまったら、作品を見た人のそういう「グラっ」という気持ちはなくなっちゃう。「この子は誰なんだろう」っていうことの方が気になっちゃうから。「誰でもいいんですよ。HARUOだから」(笑)。

image photos

―サイトウさんが誰かのアートを見に行ったときの体験や気持ちが、自分のアートを人に見せるシチュエーションや作品づくりに影響しているということですね。

サイトウさん:たぶんそうだと思います。個人的には「ただ綺麗」とか「かっこいいのはわかる」とか、そういうかんじだと単純に「面白くないなぁ」ってなっちゃうんですよね。

何か、「いろんなことを取っ払ってついつい出ちゃう言葉」みたいなのがあるだけで、その作品との距離は縮まる。通り過ぎられるよりも、パッと目がとまれば「してやったり」はあるわけだから、そういう部分はいつも大事にしています。たぶん疑問がいっぱい湧いてくるっていうのでもいいかもしれないし。「なんで白い紙に描かないのかな」っていうマイナスの疑問でもいいと思う。興味を持ってもらえてるということだから。

―絵は古い紙以外にも描いてたんですか?

サイトウさん:和紙とかには描いてたけど。人に見せる用ではなくて、立体のスケッチを自分用に描いてました。自分が絵で活動するとは思っていなかったですね。初めて絵を発表してみたところから、ありがたいことに今日まで活動を続けています。なので、今では絵を描くことが仕事にもなってきて。「描き続けてよかったな」って思ってます。

―今みたいな状況は予想してましたか?

サイトウさん:想像できなかったです。まさかの状況(笑)

―それは嬉しいことなんですか?

サイトウさん:やっぱり嬉しいですね。「HARUO」にしろ、絵にしろ、私にとっては作品だから。見てくれる人がいるし、欲しいと言ってくれる人がいるし。

image photos

―描きたいものって、パッと感じるかどうかってことですか?

サイトウさん:その空気が好きか嫌いかっていうことだけだと思います。コラボレは「いい時間が流れてる」っていうのを、最初見た時に感じたから、すぐに描きたいイメージができました。コラボレが移転する前の、辻堂のお店より今の寒川のお店の方が描きやすいと思います。

―何が違うんですか?

サイトウさん:辻堂のお店もかっこよかったけど、みんなが見た景色っていうよりかは、私が見た景色っていう意味で描けるのかな。

―「匂い」みたいなものが違うのかな。

サイトウさん:そうですね。匂いみたいなものが、私が描きやすいかんじに近かったんですね。

―webのdeliveryのページに描いてくれたワゴン車は描きやすかったんですよね。

葛サイトウさん:そうですね。ああいう何の変哲もないものを描くのが結構好きです。普通のバンとかがいる、普通の景色が絵でちょっとカッコよく見えたらいいなと。軽トラとかもカッコよく描ける気がする。「オシャレな肖像画を描いてください」とか言われて、描けないわけではなくて、私がイメージする絵ではなくなるのかもしれないけど、描けます。でも「私に頼んだんだから、こうなっちゃうよ」っていうのはあるけれど(笑)
綺麗に描いてほしかったら、もっと別の方がいい、って思うというか。やっぱりリアリティというのが大事だから。

自分が人の作品を見る時も、記憶の擦り合わせによるリアリティが、反応する部分になっているというか。匂いや音楽とかも懐かしさを感じるのは、記憶との擦り合わせがあるんだと思うから。なんかそういう感覚で絵を見てほしいと思っています。自分の絵でもそういう効果というか、体験をしてもらうことができたらいいなっていうのは、ずっと考えてます。「時差の遊び」というか。そういうものがあったらいいなって。


聞き手 collabore広報 服部雄一

image photos

image photos

2016年8月現在、日本の伝統工芸である寄木細工を使ったテーブルをサイトウさんとコラボレーションして製作中。

facebook Instagram

PAGE TOP